そもそも答えてはいけない質問

嘘を一つつくと、それがバレないようにずっと繕い続けなきゃいけなくなるから、嘘はつかない方がいいよ、っていうのはその通りなんだけど。

 

でも私達は、本音を言おうが嘘をつこうが結局どっちも良い結果にはならない質問をちょくちょく投げかけられるのだ。その多くは質問者自身についての恋愛とか容姿とか能力とかのジャンルに関する質問だ。

 

私がこれまでで最も答え方を間違えたと後悔した質問は、初めてのセックスの後「イッた?」と聞かれた時だ。性の経験も人生経験もまだ全然少なかった私は、「イクどころか全然気持ち良くもなかった」などとは到底言えず「うん」と答えてしまったのだ。

 

私の答えを聞いて彼はとても喜んでいた。でもそれが私にとっての苦痛の始まりで、その後は毎回「どうだった?」と聞かれるようになってしまったのだ。これは辛かったな。そろそろ「本当はイッてない」と打ち明けてもいいかなと考えたこともあるが、それによって実は最初からずっと嘘をついていたことがバレたら…と考えるとやっぱり言えなかった。自分の嘘を責められるという心配ではなく、相手が拗ねたら厄介かなり面倒くさい事になりそうだと思ったからだ。

 

ちなみにその相手は、私がちょっと注意したり指摘したりするとすぐに拗ねる、子供っぽくて面倒くさい奴だった。でも当時は私も「彼を怒らせてしまった…!どうにか機嫌を直してもらわないと」なんて慌ててしまう奴隷メンタルの女だったので、破れ鍋に綴じ蓋を体現したカップルだった。ああ、あの時の私に「付き合うなら本音を言える相手と付き合え、したくもないセックスなんてしなくていい」と言いたい。とても言いたい。

 

良いセックスとはお互いにどこをどうしたら気持ちがいいか、少しずつ試しながら二人で作り上げるものらしい。それを聞いた私は、ああ、本来はそうなんだろうな、と思った。でも……そこまでして頑張って気持ちよくなる努力をしたいか?とも思った。それには肉体的な快感だけでなく精神的な満足も含まれることは分かってるが、それってセックスじゃなきゃ満たされないものなのか?って。私はお酒が好きではないし、辛いものも苦手だ。どちらも鍛えればある程度までは飲んだり食べたり出来るようになるだろうが、別に健康にいいわけでもないしそんな努力をする必要はない、と大抵の人は考えるだろう。私にとってセックスもそんなものだ。

 

ただ、あのしんどい経験をしていなかったら多分私は自分がセックスにあまり興味がないことに気づけなかっただろうと思う(だってセックス=とにかく気持ちよくて素晴らしいこと、カップルならやって当然って刷り込まれて来てるからね)。

 

だからもしも今、自分にとってベストな選択をするためにあの頃に戻るとしたら、「イッた?」と聞かれた時点ではないよな。もっと前に戻らなきゃ。

 

そろそろセックスがしたいと求められた時、「私はそれほどセックスに興味がないし妊娠のリスクも怖いから、したいと思えるようになるまではしたくない。それよりもっとお互いの考えとかものの感じ方とかを知って理解を深めていきたい。もしそれが辛いなら他の人を見つけてね」と、もし私が言えてたら。少なくとも、セックスがこれほど嫌いになってなかったかもなあ。